固定資産税の滞納整理の失敗ケースとその対応について今回は、触れたいと思います。
相続がからんだ固定資産税について
固定資産税の滞納があるケースでは、相続がらみのものが結構あります。
具体的な例としては、
①被相続人が死亡
②相続人間で、遺産分割協議が整わない。
③相続登記が放置される
④相続人代表者が決まらない為、役所が代表者を指定する。
⑤相続人代表者に宛てに、納税通知書を送付するも、納付していただけない。
これが、典型的なパターンとなります。
固定資産税については、法定相続人の共有財産とみなされますので、全ての法定相続人に納付の義務(連帯納税義務)が発生します。
相続人代表者にしか納税通知書は届かない・・・
しかし、役所は、基本的には、相続人代表者にしか、納税通知書を発送しませんので、特に相続に争いがある様な場合は、納付していただけないケースが多々あります。
暫くこの様な状況が続くと、役所は時効を中断させる必要が出てきます。
しかし、不動産差押を実施しようにも、そもそも相続登記がなされていませんので、不動産差押を実施することができません。
この為、相続人代表者の別の財産(預金等)を差押たり、納付誓約書(債務承認)を提出いただくことで、時効を中断します。
連帯納税義務者の持ち分についての時効
しかし、実際には、ここに大きな問題があり、相続人代表者に対して、差押等の滞納処分を執行し、時効を中断させたとしても、あくまでそれは、相続人代表者の法定相続分のみにしか効力が及ばず、他の相続人の法定相続分については、時効が中断されません。
この為、他の相続人の法定相続分の滞納については、なんらかの方法で、時効を中断させない限り、時効を迎えてしまいます。
つまり、全ての法定相続人には、それぞれ100%の納付義務(連帯納税義務)がありますが、時効を中断されていない 他の相続人の法定相続分については、次々と時効により、納付義務が無くなってしまいます。
全ての法定相続人に、納税通知書と督促状を発送し、滞納処分を執行すれば、 他の相続人の法定相続分も時効が中断できるのですが、そこまで実施している役所は少ないと思います。
少し分かり難いですが、例としては、次の様になります。
①「Y年度の固定資産税」が100万円の相続不動産がありました。
(被相続人がお亡くなりになった翌年度の課税とします。)
②法定相続人である子が、2人いました。(Aさん/Bさん)
③法定相続人は、2人ですので、それぞれ法定相続分は、1/2です。
④役所で、相続人代表者をAさんと指定し、Aさんにのみ納税通知書を送付しました。
⑤共有財産となりますので、Aさん/Bさん双方に100%の納付義務(100万)(連帯納税義務)が発生しました。
⑥しかし、AさんもBさんからも納付していただけませんでした。
⑦そろそろ5年が経過し、時効を迎えそうです。
⑧役所は、Aさんの預金差押を実施し、時効を中断させました。
⑨しかし、Bさんには、納税通知書も督促状も発送していなかった(滞納処分の要件を満たしていない)ので、滞納処分ができませんでした。
⑩5年が経過してしまいました。
⑪Bさんの法定相続分の1/2については、納付義務が消滅しました。
⑫100万円の内50万円の納付義務が消滅したので、「Y年度の固定資産税」については、50万しか徴収できなくなりました。
地方税法一部抜粋
(連帯納税義務)
第十条 地方団体の徴収金の連帯納付義務又は連帯納入義務については、民法第四百三十二条から第四百三十四条まで、第四百三十七条及び第四百三十九条から第四百四十四条までの規定を準用する。
第十条の二 共有物、共同使用物、共同事業、共同事業により生じた物件又は共同行為に対する地方団体の徴収金は、納税者が連帯して納付する義務を負う。
民法一部抜粋
(連帯債務者の一人に対する履行の請求)
第四百三十四条 連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。
(連帯債務者の一人に対する免除)
第四百三十七条 連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。
(連帯債務者の一人についての時効の完成)
第四百三十九条 連帯債務者の一人のために時効が完成したときは、その連帯債務者の負担部分については、他の連帯債務者も、その義務を免れる。
連帯納税義務者の持ち分につての時効を中断させるには?
さて、これを防ぐにはどうしたらよいでしょうか?
まず、これを防ぐには、全ての法定相続人に対して、差押等の滞納処分を実施できる要件(納税通知書、督促状)を満たす事が必要となります。
その上で、できることが下の2つとなります。
①全ての法定相続人に対して、預金差押等の滞納処分を実施する。
②嘱託により相続登記を実施し、同時に不動産差押を実施する。
しかし、相続から何年も経過し、法定相続人が何人もいると、法定相続人の内、お亡くなりになる方が居たりします。
そうなると、さらに代襲相続が関係し、非常に困難な作業となります。
さて、ここからは、最後の手段となりますので、賛否両論あるかと思いますが、実際に行った事がある手法となります。
①相続人代表者と相談し、全ての相続人に「連帯納税義務について」お手紙を送付することを説明する。
この際に、「もし相続人が相続人代表者に限定できた」ときは、その不動産を売却する等で一括納付していただく事を約束していただく。
②戸籍などで、全ての相続人を特定する。
③相続人代表者を除く他の相続人全てに、「連帯納税義務について」お手紙を発送する。
お手紙の内容は、「納付していただけない場合は、必要な手続き後、滞納処分となる可能性があること」、「相続放棄という手段があること」を記載する。
④この作業だけで、概ね9割以上の確立で、相続人代表者を除く他の相続人 は、相続放棄をします。
⑤相続人代表者を除く他の相続人の相続放棄を確認後、嘱託による相続登記と不動産差押を同時に行います。
⑥相続人代表者による任意売却が決定すれば、それに立会い、納付と同時に差押を解除します。
また、ここまでしても納付していただけない場合は、不動産公売を実施します。
かなり手続に時間を要しますが、この様な徴収困難案件でも、事態を打開するこができます。
いずれにしても、このような状況になる前に、早めに相談しましょう。
まとめ
固定資産税の連帯納税義務者の時効は、中断させないと、その持ち分については時効が成立する
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