元地方税の滞納整理をやっていた管理人です。
滞納整理から離れてかなり記憶も怪しくなっておりますが・・・
連日報道されている、非課税世帯に対する臨時特別給付金の9割を法的???に確保したという報道に若干、違和感を感じたので掲載します。
何か違和感を感じる
当該自治体の顧問弁護士によると・・・
- 容疑者に税金の滞納があった
- 国税徴収法による財産調査権を使って決済代行事業者を特定
- 残高を実査(債券の有無)
- 国税徴収法による債券差押を実施
- なぜか各決済事業者に入金された全額が返還された
という具合に掲載されています。
債券差押の範囲は妥当か?
さて、ここでまず違和感を感じたのが差し押さえの範囲です。
国税徴収法第63条(差し押える債権の範囲)に
国税徴収法の第六十三条の徴収職員は、債権を差し押えるときは、その全額を差し押えなければならない。ただし、その全額を差し押える必要がないと認めるときは、その一部を差し押えることができる。
とあります。
また、国税徴収法第48条(超過差押・無益な差押の禁止)に
国税を徴収するために必要な財産以外の財産は、差し押えることができない。
差し押えることができる財産の価額がその差押に係る滞納処分費及び徴収すべき国税に先だつ他の国税、地方税その他の債権の金額の合計額をこえる見込がないときは、その財産は、差し押えることができない。
となります。
つまり、容疑者の地方税の滞納額がいくらあったか不明ですが・・・
何千万円もあるわけではないので、決済代行事業者3社全ての債権を全て差し押さえるのは、超過差押の禁止(1社の債権で十分滞納額に満ちる)に当たる可能性があるのではないかと思います。
税金の取り立てでは回収できない
仮に、超過差押を無視して、決済代行事業者3社全てから、国税徴収法に基づく取り立てを行ったとしたら・・・
税金の滞納分に充当後は、残預金を本人に返す必要があります。
つまり、国税徴収法に基づく取り立てでは、回収できません。
兵糧攻めはできる
ただ、超過差押を無視して、国税徴収法を利用して、かたっぱしから分かる口座の全ての預金を差し押さえして、取り立てをしなければ、口座は凍結されますので・・・
兵糧攻めはできます。
ただし、取り立てはできません。
取り立ててしまうと・・・
3日以内に配当計算書を送付し
配当計算書の送付から7日を経過した日に交付・充当し・充当通知書を送付しなければなりません。
もちろん残預金があれば、原資が過誤払の4,630万円であっても本人に返還となります。
つまり、取り立ててしまうと、税金の滞納分しか回収できなかった事となる気がします。
ただ、返還する前に、不当利得返還請求による仮差押えを行えば・・・
とりあえず返還を止める事はできると思います。
記事によると取り立てまでやっている
しかし、記事によると取り立てまでやっているとの記載がありますので・・・
その後の手続きについても、元滞納整理をやっていた管理人的には興味があります。
通常の手続きであれば・・・
先にも書いた通り・・・
3日以内に配当計算書の送付
配当計算書の送付から7日を経過した日に充当・残預金は返還となります。
不当利得返還請求の本訴訟が確定するまでは、仮差押えしかできませんので・・・
自治体の口座に対して仮差押えの手続きをするのだろうとは思いますが・・・
そうすると自治体の口座からお金を動かせなくなるので、自治体の業務に影響がでるような気もしますが・・・
どうなんでしょうか?
首長の法的に確保したに違和感
報道では、首長が法的に確保したと言っていますが・・・
国税徴収法に基づく差し押さえであれば・・・
誤給付した4,630蔓延に係る不当利得返還請求を法的に確保したに該当しない気がします。
あくまで法的に確保・回収できるのは【税金の滞納分】のみとなりますので・・・
不当利得返還請求に係る仮差押えを残預金に対して実施したということになるのでしょうか?
なんだかかなり荒業な気がする?
結局は、国税徴収法に基づく滞納処分により・・・
決済代行事業者3社と給付金が振り込まれた口座の差し押さえを実施。
即時取り立てを行ったので、容疑者の債権があるのであれば、取り立てに応じざるを得ません。
ただ、債権の存在については・・・
「犯罪による収益の移転防止に関する法律」8条1項に基づき、犯罪による収益と関係する「疑わしい取引」が行われているとして金融庁への届出と、同庁の定める「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応を求め・・・
これが民法90条による公序良俗に反する取引だから、そもそも無効である。
よって、債権があるという論法を取っている様です。
この手法で、債権の存否を主張するのは、流石は弁護士と言ったところでしょうか。
ただし、国税徴収の質問及び検査権を行使し・・・
口座の取引歴から決済代行事業者の口座を特定したとの記事も見かけますが・・・
もしこれが事実であれば、守秘義務違反及び職権濫用罪になる気がしないでもありません。
まず、容疑者の滞納額がどのくらいだったか不明ですが・・・
給付金が支給された口座の残高で足りるものであれば・・・
それ以上の調査は職権濫用になる気がします。
容疑者が住民税非課税世帯であり、移住してから1年半であることを考えると・・・
国民健康保険税も軽減を受けている可能性が高いので・・・
おそらく、滞納があったとしても5万円にも満たない額だった可能性もあります。
また、堂々と記者会見を開いて・・・
国税徴収法に基づき滞納処分を実施したと報道するのは・・・
職務上知りえた秘密の漏洩(守秘義務違反)となる可能性があります。
これは、個人に対して、滞納処分を実施したことを報道することは個人情報の漏洩となる可能性がありますし・・・
また、滞納処分で得た情報を他の部署に漏らすことは守秘義務違反となる可能性があります。
結局のところ刑事事件となったことで、反対に訴えられるリスクがないだろうという判断で、かなりの荒業をやっている気がします。
容疑者の弁護士が優秀だったら反対にやられそうですね。
結局の決め手は?
結局の決め手は・・・
担当弁護士が、容疑者が出金した先の決済代行業者3社の口座がある複数の銀行に対し【マネーロンダリングになりかねない行為に関与している旨の通知をする】のがイチバン効いたのでしょう。
逮捕されたということは、これらの決済代行事業者にも捜査の手が及ぶ可能性があります。
警察はもしかしたら、容疑者の逮捕よりも【ネットカジノの摘発】が本命かもしれませんので・・・
そう考えると、捜査を恐れた決済代行事業者が、まだ容疑者の振り込んだお金が残っていたのか?身銭を切ったのか?は不明ですが、捜査の手から逃れるために容疑者の債権を全額認めて取り立てに応じたと考えるのが妥当でしょう。
ただ、本来であれば、本人が返還の意思を翻した時点で、給付金を支給した口座に対して【仮差押】を実施するのが本筋だと思います。
報道もいい加減な気がする
管理人も既にロートルなので記憶が怪しいところはありますが、なんだかマスコミも正確に情報を聞き取り、その裏付けを取って報道していない気がします。
超過差押で訴えられたら?
担当弁護士が取らせた、国税徴収法に基づく、滞納処分の詳細なプロセスが分かりませんので、なんとも言えませんが・・・
ホントウに超過差押に当たる様な滞納処分をしていたなら・・・
国税徴収法違反・公務員職権乱用罪に当たる可能性があるかもしれません。
追記
この記事が投稿される前に・・・
国税徴収法による差し押さえた決済代行事業者の口座の残高が差し押さえ時点で・・・
600万円だったという記事がありました。
こうなると・・・
既に報道されている内容と若干異なってきます。
過誤払いがあった4,630万円のうち、容疑者の地方税の滞納処分として、国税徴収法により決済代行事業者の口座差し押さえにより約4299万円を確保したとの報道でしたが・・・
実際の口座残高が600万円では、数字があいません。
通常の預金差し押さえ(即時取り立て)の場合は・・・
- 差し押さえ時点での口座残高(預金債権)を差し押さえ
- 即時取り立ての場合は全て取り立てる
- 3日以内に配当計算書を送付
- 配当計算書の送付から7日を経過した日に充当
- 残預金があれば返還
というフローとなります。
ということは、どうやって4,299万円を確保したかになるのですが・・・
例えば、給与差し押さえの場合など翌月以降も継続的に差し押さえする場合は・・・
【但し滞納金額に満ちるまで】と付帯条件が付きます。
滞納金額に満ちるまでに別の滞納が発生した場合は、二重差し押さえが必要となります。
今回のケースでは、この手法は該当しませんので・・・
ここからは、管理人の推測ですが・・・
- 口座の残額を全て差し押さえ
- 取り立てはしない
- 口座が凍結されるので決済代行事業者の事業がストップする
- 決済代行事業者から連絡がある
- 自治体の弁護士が直接交渉(公序良俗違反や犯罪による収益の移転防止で脅す?)
- 交渉により滞納処分とは別案件として返還させる
- 税金の滞納分のみ取り立てて口座の差し押さえ解除
という手法だった可能性があります。
これは、管理人も滞納整理をやっていたときに使った事がある手法です。
具体的には・・・
- とりあえず少額であっても口座を差し押さえる
- 取り立てせずに凍結する
- 本人からの連絡を待つ
- 交渉により全額一括納付させる
- 全額一括納付の資力が無い場合は、こちらが納得できる分納の約束を取り付ける
という方法です。
決済事業者の口座の残高が確保した約4,299万円に満たない事から・・・
恐らく相手のやましいところを突いて交渉で返還させたというのが実態かもしれません。
ただ、渦中の決済代行事業者3社が身銭を切ったのかはどうかは分かっていませんが・・・
もしかしたら、容疑者が逃げ切るつもりで、【ネットカジノ】で全て使ったと嘘を言っていただけで、実際には、決済代行事業者の口座に移しただけ、若しくは、実は勝って儲けていた???
という可能性もあったりするかもしれません。
ん~いずれにしても詳細が知りたいですね。
当然ですが、これが違法なネットカジノでなく、法律内での一般的な取引であれば、そもそも差し押さえは成立しません。
もし容疑者が【ネットカジノ】という言葉を出さなかったら・・・
公序良俗違反による法律行為の無効を主張できる証拠を簡単に得る事ができず・・・
確保・回収にはもう少し難儀したかもしれません。
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